現代のピアノのほか歴史的な鍵盤楽器で演奏活動を行う。第1回ショパン国際ピリオド楽器コン第2位、2016年ブルージュ国際古楽コン・フォルテピアノ部門最高位、2018年第一回ショパン国際ピリオド楽器コンクール第二位。第1回ローマ・フォルテピアノ国際コン優勝など受賞多数。第3回ローマ・フォルテピアノ国際コンクールでは審査員を務める。世界各地の古楽音楽祭にも多数出演。【曲目】「田園風」「無頓着」「傲慢」(ソル作曲)創作主題による32の変奏曲(ベートーベン作曲)ほか【収録】2020年9月17日 府中の森芸術劇場 ウィーンホール―番組紹介よりー

1989年に岩手県盛岡市で出生し、横浜で育つ。東京藝術大学音楽学部楽理科を卒業。大学在学中に古楽器にフォルテピアノに出会い、先輩の勧めでフォルテピアノを中心とした古楽器による演奏活動を開始した[1]。その後、同大学院修士課程古楽科に進学し、大学院アカンサス賞を得て首席修了。アムステルダム音楽院古楽科修士課程を特別栄誉賞を得て首席修了。現在オランダアムステルダム在住。歴史的な鍵盤楽器を用いる。
川口成彦のコメント
ちょうど20歳になるころ、東京芸術大学の楽理科に在学していて、副科実技でフォルテピアノをやることになったんですが、ハイドンのソナタを弾いたときに、今まで現代のピアノで自分が知っていたイメージしていたハイドンとまるで違うものが見えてきて、はじめて古典派の音楽にかっこいいなと心から魅了され、それからどんどん嵌っていきました。昔のピアノというのは川の水のようないろんなものが混ざっているような音色に素朴さというか自然さを感じて、より人の声に近いなという感覚がある。それで昔のピアノって面白いなと思っています。
きょうのこの楽器はジョン・ブロードウッドといって当時のイギリスを代表する製作家の楽器で、それを太田垣 至さんという日本人の修復家の方が2020年に修復されたオリジナル楽器なんです。1800年ごろのものをそのまま現在でも音が出るように新しく修復された楽器です。今回使ったピアノに限っていうと、すごく軽いです。鍵盤数が5オクターブ半。今のピアノに比べるとすごく少ないです。それから中の弦が平行に張られている。パラレルスプリング、平行弦というんですが。平行に張られているのが特徴です。きょうの楽器はこれ(つまみのようなものですがよくは見落としました)がついていて、つまりこれをスライドすると、2本弦にしたり、1本弦にしたり。弦が3本張られているのが1本弦までできる。ペダル、右のがダンパーで音を響かせるやつですけれども、当時の楽器は1本弦、2本弦、3本弦と変えられたんですけれども、現代のピアノは2本弦までというのも大きな違いです。スペインの楽器の歴史というのは非常にイギリスのピアノの製作の影響を受けていて、スペインからイギリスに楽器製作を学びに行った人もいたり、マドリードの王宮にはブロードウッドがあった。で、それがいまボストン美術館にある楽器なんですけれども、イギリスの楽器って豪快さもあるんですね、派手さがあるというか。スペインのピアノ曲というのも、ギターからインスピレーションを受けたような表現も多いので、あとはスペインの民族的な歌だとか舞曲だとか、ピアノ音楽でそういうのを取り入れるにあたってもジョン・ブロードウッドの楽器、イギリス系の楽器というのは、スペインの作曲家たちにインスピレーションを与えたんじゃないかなと思います。
ベートーベンというのは、モーツァルトやハイドンに比べると、より一層楽器の限界を突破しようとした人なんだなというのを、やはり当時の楽器を弾いてみるとすごく感じます。最大限の自分のマキシマムなエネルギーをピアノと言う楽器に向けていた作曲家だなと思います。「月光」ソナタの第3楽章を当時の楽器で弾くともう崖っぷち状態にいるような緊迫感がすごくありますね。もう楽器も壊れるんじゃないかというぐらいのエネルギーがあって、ドナルド・ブラウティハム(オランダを代表する演奏家)さんという人の「月光」の録音が大好きなんですけれども、聴衆としてそれを聞くともう椅子にしがみつきながら聴きたくなるような崖っぷち状態。これは現代のピアノではなかなか表現できない世界。現代のピアノはもうどんな音を出しても余裕で大らかに受け止めてくれるので。ベートーベンがいかにその楽器の限界突破に挑もうとしていたか、未来志向だったのかなと思います。きょうの楽器というのは、「熱情」ソナタとかの時期とかの楽器ですけれども、これで「熱情」の3楽章とかも弾きますと、やっぱり限界値に到達、連れて行ってくれるといいますか、その白熱するエネルギーというか、その時にベートーベンって凄まじいエネルギーを持っていた人間なんだなと思います。
曲目
☆「アリア ニ短調」アングレス:作曲
ラファエル・アングレス(1730~1816) 1762年2月1日にバレンシアのカテドラルのオルガニストとして就任し、86歳で死ぬまでその職を務めたということです。オルガニストの職と共に、グレゴリオ聖歌の指導をしたり、他の楽器の楽団員の審査員をしたりもしました。(全てニューグローヴ音楽事典からの情報です。アングレスに関する面白いネタ話はなかなか見つかりませんでした…)―川口成彦の頁からー
☆「スペインのファンダンゴによる変奏曲」ロペス:作曲
フェリックス・マクシモ・ロペス(1742~1821)
☆「ソナタ ニ長調」アルベニス(1755~1831):作曲
1790作曲。サパティアードの影響。スペイン舞曲の影響。
☆「ファンダンゴ風メヌエットによる変奏曲 ニ短調」ロペス:作曲
カスタネットとギターで踊るファン・ダンゴの影響。
☆「田園風」ソル:作曲
フェルナンド・ソル(1778~1839)
☆「無頓着」ソル:作曲
☆「傲慢」ソル:作曲
☆「アンダンテ・ファボリ」ベートーベン:作曲
もともとワルトシュタイン・ソナタの中間楽章として書かれたが、冗長になるのを恐れて独立した楽曲にした。1803年から1804年にかけて作曲され、1805年に出版された。章の構想であったのをソナタには組み込まれずに独立した作品として1805年に出版された。
☆「創作主題による32の変奏曲 ハ短調」ベートーベン:作曲
1806年に作曲したピアノ独奏のための作品。
作曲者36歳の中期に属する作品で、古典的な作曲法と巧みな変奏技法とが見事に一体となった変奏曲である。ベートーヴェンはハ短調には特に名作が多く、交響曲第5番、ピアノ協奏曲第3番、ヴァイオリンソナタ第7番など、大作が揃っている。
🎵だいたい同年代の作曲家たち。ベートーベンは1770だけれども。アルベニスまではギターの響きのような音色もあり陽気で明るく舞曲のような躍動感。「ファンダンゴ風……」は足を床に打ち鳴らすような響きが心地よい。ソルは練習曲を聴いているような。それがベートーベンで一転。「創作主題による……」、解説、コメントが一層の真実味を。ベートーベンのベートーベンたる所以に満足度もまたマキシマム。
因みにソロ・アルバム「ゴヤの生きたスペインより」の使用楽器は
ジョン・ブロードウッド&サン 1792年製(エドウィン・ベウンク氏修復)…トラック1-3、8、11-14
クリストファー・ゲイナー スクエアピアノ 1780年頃製 (オラフ・ファン・ヒース氏修復)…トラック4-7、9、10
🎧名曲アルバム。音楽の父・バッハ最晩年の傑作「フーガの技法」が生まれた街、ライプチヒ。ゆかりのトーマス教会の音楽監督やオルガ二ストは次代へ、愛するバッハの音楽をつないでいる。(番組紹介より)
オルガンは冨田一樹
☆音楽の町ライプチヒ。メンデルスゾーン、シューマン、ワーグナーら多くの名作曲家たちと深いゆかりがある。その礎を築いたのが聖トーマス教会の音楽監督を務めたバッハである。バッハは後半生の27年間をライプチヒで過ごし、「マタイ受難曲」などの大作を世に送り出した。その最晩年の傑作が「フーガの技法」である。バッハは日曜礼拝のミサ曲を書き続けながら子どもたちに合唱を教えた。今も子どもたちが寮生活で寝食を共にし、音楽を学んでいる。34代目の教会音楽監督シュヴァルツさんが今バッハが創り出した大切な音楽を次世代へ伝える。
決して順風満帆ではなかったバッハの人生だが、バッハは世俗の困難に立ち向かい神への深い信仰を音楽で表した。
バッハは友人への手紙に綴っている。「悩みながらも生きていかねばならない」
コーヒー文化の歴史も古いライプチヒ。カフェは街の社交場でもあり、バッハは演奏を披露した。銘菓「レルヒェ」(ひばり)とほろ苦いコーヒー。人々は友人たちとゆっくりと時を過ごす。コーヒーをこよなく愛したバッハ。カフェはストレスを和らげ心を満たす場でもあった。
「フーガの技法」は謎めいた曲とも言われている。譜面に楽器の指定がないため、鍵盤楽器だけでなく様々な形態で演奏されている。バッハが誰のために何の目的のために書いたのか。65年の音楽人生への感謝を表す「神へのささげ物」だったのかもしれない。英知を注いだ音楽が生きる力を与えてくれる。ー番組解説通りー
⛳けさはこのライプチヒの映像が胸に迫り涙が。10時3分更新
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