220816 クラシック倶楽部を聴く 福井敬 悲しくなったときは〜歌に込めた思い〜
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新国立劇場やびわ湖ホールほか数々のオペラ公演でタイトルロールを演じ、ドラマティックな歌声で聴衆を魅了。2016年ウィーン・フィルの第九演奏会でソリストを務める。【演奏】福井敬(テノール)谷池重紬子(ピアノ)【収録】2020年12月3日 武蔵野市民文化会館大ホール
テノールの福井敬は岩手県水沢市出身。 (以下はこちらから)国立音楽大学及び同大学院修了。文化庁在外派遣等により渡伊。イタリア声楽コンコルソミラノ大賞(第1位)、芸術選奨文部大臣賞新人賞、五島記念文化賞オペラ新人賞、ジロー・オペラ新人賞及びオペラ賞、出光音楽賞、エクソンモービル音楽賞本賞、等受賞多数。2015年には二期会「ドン・カルロ」の優れた演唱等により"第65回芸術選奨文部科学大臣賞"を受賞。二期会「ラ・ボエーム」ロドルフォ役での鮮烈デビュー以来、数々のオペラに主演。他者の追随を許さない輝かしい声、音楽性豊かな表現力かつ情感溢れる演技により、聴衆を魅了している。
ピアノの谷池重紬子は第一線で活躍している歌手と数多く共演。歌手の育成にも携わる。次代のオペラ界を担う歌手を支えている。
福井敬のコメント
テノールの魅力は、昔、高校時代に応援歌練習、要するに伴奏無しで応援歌を歌わされるんですよ。周りのみんなは高い音でヒーヒーいってたんですけど、なぜか私だけ高い音がわーっと出ちゃって何でだろうと不思議に思ってたたんですけど、あ、これがテノールというものなんだなとそのときに初めて感じて、自分はテノールなんだろうと思って、最初におそらくルチアーノ・パバロッティという世界の名テノールの、その時代はまだLPレコードなんですけど、買いまして、こんな素敵な声を持ってる人がいるんだ、わ、面白いなと思って勉強していくうちに、歌って、あ、そうだ、楽器を使わないんだ。そうか自分自身の体が楽器でそれが、自分の体そのものが逆に音楽を表現するためのインストゥルメントであり、その手段であり、唯一のものだとすごく魅力を感じて、やっていくうちにどんどんどんどん嵌っていきました。
私は実は岩手県の出身なんですね。東日本大震災があったときに、やっぱりその無力感と言うか、自分はこちら関東にいて何もできない悔しさとか虚しさ、それからこちらで被災された方が大変な生活を送ってらっしゃる。あるテレビでニュースで岩手で被災した避難生活、ほんとうに辛い、大変だと仰ってたんですけども、でもそういうときに、「宮澤賢治の詩を口ずさむんです。そうすると、あ、もうすこし頑張んべが、て思えた」と。それを見たときに何ができるんだろうと思ったときに、あ、自分は逆に音楽を色々なコンサートの会場で披露することができるんですから、じゃ音楽で皆さんにこういう思いがあるんだよ、こういうふうに頑張っている人がいる、そういう思いを忘れないでほしい、それから一緒に感じて欲しいというふうに思って歌うようにしています。
曲目
「君を愛す」 アンデルセン詩、グリーグ曲 寺倉正太郎 訳
「木兎」 中田喜直
歌劇「リゴレット」から「女心の歌」ヴェルディ
歌劇「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」プッチーニ
歌劇「トスカ」から「たえなる調和」プッチーニ 小畑恒夫 訳
歌劇「ウェルテル」から「春風よなぜ私を目ざますのか」マスネ
詩「雨ニモマケズ」福井敬の朗読
「悲しくなったときは」寺山修司 詩 中田喜直 曲
「死んだ男の残したものは」谷川俊太郎 詩 武満徹 曲
「小さな空」武満徹
「春なのに」菅野祥子
「つれない心」カルディッロ
カタリィに呼びかける失恋の想い
「彼女に告げてよ」ファルヴォ 小瀬村幸子 訳
告げてください、あなたから。告げたい愛の苦しみ。
「ビー・マイ・ラブ」ブロッキー 濱田滋郎 訳
恋の歌。
死んだ男の残したものは
1.
死んだ男の残したものは
ひとりの妻とひとりの子ども
他には何も残さなかった
墓石ひとつ残さなかった
2.
死んだ女の残したものは
しおれた花とひとりの子ども
他には何も残さなかった
着もの一枚残さなかった
3.
死んだ子どもの残したものは
ねじれた脚と乾いた涙
他には何も残さなかった
思い出ひとつ残さなかった
4.
死んだ兵士の残したものは
こわれた銃とゆがんだ地球
他には何も残せなかった
平和ひとつ残せなかった
5.
死んだかれらの残したものは
生きてるわたし生きてるあなた
他には誰も残っていない
他には誰も残っていない
6.
死んだ歴史の残したものは
輝く今日とまた来るあした
他には何も残っていない
他には何も残っていない
🎵オペラのアリア。歌劇の公演では、このオペラのハイライトに納得すれば、きょうの公演はよかったね、ということになるのかもと思った。この朝聴いていて、パバロッティよりも芸術的質が上ではないかと思いさえした。何をバカなと言われそうだが、世界の3大テナーの場合、先ずはその声量に度肝を抜かれ圧倒される。有無を言わさぬという圧力さえ感じる。これを除いた場合、彼らよりも内容的に優れたテナーはけっこういるのだと思われる。福井敬も質的な点で大変説得力に富んでいると思う。愛の心境を朗々と。オペラは向こうでは演劇よりも大衆的であるらしいけれども、愛の移り気、軽さ、切なさ、喜び、悲しみ、傷み、愛の勝利を余すところなく。
やはり武満の「死んだ男の残したものは」が沁みた。谷川俊太郎が作曲を依頼。「ベトナムの平和を願う市民の集会」のために書かれた作品。この番組収録は20年。ウクライナのあの惨状を見た後では、どのように歌われたであろうかとふと思った。「つれない心」はアメリカに帰化したイタリアの作曲家カルディッロが同郷であるナポリ出身の大テノールであるカルーソーに捧げた作品であると番組解説。
一曲一曲をぐんと引き寄せ渾身で歌いあげる。じわりと心に来る説得力! 無観客であるけれども、大観客の前で歌っているという雰囲気。コロナなければ盛んにブラボーがあがっていたはず。
岩手出身。県人の活躍は嬉しい。
岐阜県郡上八幡は古くからの城下町。「郡上踊り」は郡上八幡の夏の風物詩。30数夜にわたって開かれおよそ30万が参加。盆の4日間行われる徹夜踊り。踊りで歌われる郡上節は10曲。元は各地から伝わった民謡だという。中でも「春駒」は軽快なリズムと威勢の良い掛け声で人気の曲。江戸時代に始まり400年にわたり地元の人々が守り続けている。終戦の日は戦没者慰霊のために踊ったという。夜明けが近づくころ最後に歌われるのが「まつさか」。
新日本紀行で下駄職人、下駄工房を見てから、やたらに下駄が気になっていた。もうすたれてしまったかな。しかし郡上踊りあるかぎり、その心配はなさそう。
⛳6時45分更新
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