210409 クラシック倶楽部を聴く ビオラスペース
ヴィオラスペース2019 ヴィオラで巡る音楽の旅
28回を迎えたビオラの祭典。世界各地からビオラの名手が集まり、将来を嘱望される日本の若手奏者たちと競演を繰り広げる。ビオラ・ファンならずとも必見のコンサート。【出演】アントワン・タメスティ(指揮/ビオラ)今井信子、佐々木亮、(以上ビオラ)ガース・ノックス(ヴィオラ・ダモーレ)三浦一馬(バンドネオン)ほか【曲目】「ストレンジャー」(ノックス作曲)【収録】2019年6月5日上野学園石橋メモリアルホール―番組紹介よりー
ビオラスペースは世界的なビオラ奏者今井信子が中心となって1992年から毎年開催されているビオラの祭典。国内外のビオラ奏者によるガラ・コンサートや若手演奏家のための公開マスタークラスを行っている。今回はビオラで巡る音楽の旅というテーマでアイルランドやオーストラリアや日本など世界各地の作品が演奏された。プログラミング・ディレクターを務めるのは、2004年にミュンヘン国際コンクールを制したビオラ奏者アントワン・タメスティ。
アントワン・タメスティのコメント
選曲が終わってからつくづくおもいました。「ほんとうに色々なスタイルの曲が集まったな」と。ブレット・ディーンの曲はとても緻密で、無調音楽などの流れを組んでいるのですが、ベートーベンの引用もあってすごく面白い。西村朗の曲は現代音楽ですが、誰もが知る古謡「さくら」を引用しています。一見難しそうな現代曲が並んでいますが、決してそうではありません。「ストレンジャー」について、これはヴィオラとヴィオラ・ダモーレ奏者のガース・ノックスと話し合って生まれた作品です。彼の曲には即興演奏が求められる部分があります。そこでは自由な演奏ができます。彼は舞台空間を利用するのも大好きです。舞台の中央の位置だけでなく様々な位置から響きを探りながら曲を書きます。演奏者が舞台上で動くことで、聴き手も旅をしているような感覚になるでしょう。そして今までにない新しい響きを楽しむことができるのです。
「テスタメント」について、これはベルリン・フィルのビオラ奏者だったブレット・ディーンが同僚たちのために書いた曲です。現代音楽的な響きの曲で、12人のビオラ奏者とのやりとりが面白い。主導権を握る奏者が目まぐるしく変わって、音が縦横無尽に駆け回るようです。とても刺激的で魅力的な作品です。
現代音楽的な響きの曲で、12人のヴィオラ奏者とのやりとりがおもしろい。主導権を握る奏者が目まぐるしく変わって音が縦横無尽に ようです。
曲目
☆「ストレンジャー」ガース・ノックス:作曲
(ビオラ)アントワン・タメスティ、(ヴィオラ・ダモーレ)ガース・ノックス
アイルランドの盲目のハープ奏者が残した「負傷した軽騎兵」という曲をもとに書かれた作品。幾多の戦いから生還した老兵士が、故郷で「見知らぬ人」として疎外される姿が描かれている。
ヴィオラ・ダモーレは、17世紀に生まれた弦楽器。演奏用の弦の下に張られた共鳴用の弦が、独特な残響を生み出している。
☆「8つのヴィオラのための<桜>」西村朗:作曲
(ビオラ)今井信子、(ビオラ)ルオシャ・ファン、(ビオラ)井上祐吾、(ビオラ)セジュン・キム、(ビオラ)大島亮、(ビオラ)辻菜々子、(ビオラ)井上典子、(ビオラ)佐々木亮
今井信子を中心としたビオラグループ「ヴォワラ・ヴィオラ!」の委嘱で書かれた作品。東日本大震災のあと、桜花のうつろいから受けた作曲者の内的な心象風景が描かれている。
☆「ル・グラン・タンゴ」ピアソラ:作曲
(ビオラ)佐々木亮、(チェロ)江口友理香、(バンドネオン)三浦一馬
1982年タンゴの巨匠ピアソラが、世界的チェロ奏者ロストロポーヴィッチのために書いた作品。原曲はピアノとチェロのための作品だが、今回はバンドネオン奏者の三浦一馬の編曲で演奏された。
☆「テスタメント」ブレット・ディーン:作曲
(指揮)アントワン・タメスティ、佐々木亮、塩加井ななみ、藤原右京、石渡彩馨、本田梨紗、貝森萌、蕨春菜、布施海里、佐藤友希乃、島英恵、大島愛華、大畑祐季乃
ベートーベンの有名なハイリゲンシュタットの遺書にちなんだ作品。12人の奏者は通常の弓と松ヤニを塗らない弓を持ち替えて演奏する。不確かにぼやかされたビオラの音は、悪化する耳の病を示唆している。また同時期に作曲された弦楽四重奏曲ラズモフスキー第1番が引用されている。
🎵「ストレンジャー」、ステージの両端に距離を置いての演奏。遠隔で語りかける魂に呼応する。諦念をもらして曲が鳴りを潜める。「桜」、幽玄にたわわに、そしてどこか凄まじい感じも。被災直後の光景が累々と。それでも傍らに咲く桜。「ル・グラン・タンゴ」、穏やかなリズムにも籠る熱さ。「テスタメント」、このような状況に、甘やかな香りがふと鼻をつくような旋律も。聞こえなくなっていく状況を音で表現するという、どこかパラドックス的。ベートーベンのその時の心境、それがなぜか凹凸の面、歪んだ面、映っているさらにその奥に映りこんでいる面、とにかくさまざまなカーブのある鏡に映し出されているような感じもして聴いた。このときが日本初演であったとか。
🎧名曲アルバムはグロフェの組曲「大峡谷」から「日の出」。大友直人&N響。
🎵とにかく10年がかりで、この巨大スケールのグランド・キャニオンを作曲。どんな楽器をもってしても、パイプオルガンを入れても、管総動員、全打楽器の連打を入れてさえ間に合わないと思われるこのスケールを作曲しようとした人物がいたことに驚き。
⛳けさは5時過ぎに雪が舞い始め、6時までには咲いた桃やら開きかけた桜、青々としかけた土手、屋根屋根を白一色に。そして瞬く間に消えたはずが、17時のいま、また細かに吹雪だしている。
17時05分更新
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