210112 クラシック俱楽部を聴く ギル・シャハム バイオリン・リサイタル
名手ギル・シャハムによるバッハの無伴奏パルティータ、そしてシャハムが「すばらしい音楽の達人」と評するピアノの江口玲との共演でフランクのバイオリン・ソナタほか。ー番組解説よりー
ギル・シャハム:1971年アメリカ、イリノイ州生まれ。幼少期にイスラエルに移住。10歳でエルサレム交響楽団との共演でデビュー。その後著名なオーケストラ、指揮者と共演。今日のバイオリン奏者を牽引する一人。
江口玲:東京都出身。東京芸術大学作曲科卒。ジュリアード音楽院でピアノを学ぶ。洗足音楽大学大学院、東京芸術大学で教鞭を執る。
☆クライスラー: プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ
『プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ』も、ヴァイオリンとピアノのための演奏会用小品のひとつ。冒頭、マルカートの4分音符のみで提示される全22小節のアレグロ主題は、聴く者の魂を揺さぶるかのような強い意志と悲劇性を帯びている。やがて16分音符を中心にした技巧的な変奏曲が続き、重音を駆使した畳みかけるようなフレーズによって劇的なクライマックスを形づくる。なおこの作品は、当初、クライスラーが演奏旅行先の図書館で発見したイタリアの作曲家ガエターノ・プニャーニ(1731~1798)の未発表曲の編曲として発表されたが、後にクライスラー自身が自作であると告白し、一大センセーション※を巻き起こした一連の曲のひとつである。※通称「作曲者詐称事件」
☆J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番 ホ長調 BWV1006
☆フランク: ヴァイオリン・ソナタ イ長調
🎵シャハムと江口の会話にはシャハムの人間味あふれる人柄が伝わってくる。シャハムは長い間バッハを弾いておらず弾くのが怖いというのだが、江口が、私にとってシャハムのバッハは完璧で僕の大好きなバッハだ、シャハムはバッハのすべてを引き出してくれるという。シャハムの曲解釈の誠実さ正直さも。ふたりの会話が実に互いを輝かせるという爽やかさ。シャハムいう「玲のような共犯者と“悪だくみ”」しながらの30年もの共演。続いた所以がここに。「アキラの演奏は隙が無く曲が巧みに完成されている」とも。。シャハムが「バッハほど喜びをもたらす音楽家はおらず、バッハを弾くと良い人になったような気がする」と。また歴代の作曲者たちをあげ、ポップ・ミュージシャンさえもバッハとつながっていると話す。意外だったのは、シャハムが「バイオリンはスマートホンのようなもの。使いこなせない。少しずつこのマシンのすばらしさを発見しつつあるところ」と。二人のこの関係は確かに演奏に反映されており、互いが互いの個性を引き出し互いが存分に自らの演奏を充実させているという感じが。
クライスラーの「プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ」、この曲に関しては別なブログから引いておいた。クライスラーという人物を知る一つの手がかりであるかと。
バッハの「無伴奏バイオリンパルティータ第3番」、とにかく風通しがいい。これは前にも書いたことだが、たとえは適切かどうか自信はないけれども、超能力を備えたハウスキーパーが、へやにあるものを次つぎに、一点の曇りもなく見る見る間に磨き上げていく。床、ガラス、天井、照明、ドアノブ、手すり、スイッチ、壺、日常に使う食器の数々。つまりこのへやが筆者の内面なのだが。マイナスの感情を痛みもなく切り落として、すっきりとそのもの本来のありようを取り戻してくれるのだ。ギル・シャハムもいっている「バッハがいてよかった」と。ロンドン風ガボットではもう喜びが満ち溢れている。玲が言ったとおり「シャハムの演奏は、目の覚めるようなクレイトーン、天国にいるような響き」であり、バッハは、シャハムが言うとおり、彼に言わせれば演奏した後はということなのだろうが、聴いたあとには「良い人になった」かの思いにさせてくれるのだ。
バッハは宇宙をも思わせる。賢治のよく挿絵にある夜空を窓灯り連なる列車が星空をひた走っている感じとはすこし違っていて、バッハの宇宙は宇宙の暗さをそのままに透過性を効かせて明るく照らしている。その響きゆえに暗さは暗さとしてあるのだが決して暗くはない、そんな感じなのだ。
フランクの「バイオリン・ソナタ」。フランクは人生の大半を教会のオルガン奏者として過ごしたようだ。この曲はフランク64歳の作曲。フランクの人生のドラマ展開をシャハムの小気味よい見事な演奏展開で聴かせてくれた。この響き、私には、人生捨てたもんじゃない、人生はすばらしい、これでいい、全ては懐かしい。ドラマもあるさ、涙もあるさ、だけど人生はなかなかわるくはない。全面肯定と聴こえる。
湧き上がるブラボー。音楽的にだけでなく、シャハムの人柄からもつたわってくる冴えと人間味を兼ね合わせたすばらしい演奏だった。
🎧 名曲アルバムはエルガーの「なぞ」。大友直人&東京フィル。
ウースター郊外にあるエルガーの生家。科学にも傾倒、「なぞ」にも暗号が。
⛳けさの盛岡の外気温は-6℃。7時更新
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