2019/7/23クラシック倶楽部を聴く
チョン・キョンファ バイオリン・リサイタル Ⅰ
(ピアノ)ケヴィン・ケナー
東京オペラシティ コンサートホール(2018年6月5日)
チョン・キョンファ
1948年韓国生まれ。6歳の時運命の楽器バイオリンに出あう。僅か12歳で家族と離れ、アメリカの名門ジュリアード音楽院で学ぶ。ビユーから50年以上、世界を舞台に活躍。今回は彼女が最も信頼を寄せるケヴィン・ケナーと共演。1970年22歳の時、ロンドン交響楽団アンドレ・プレヴィンと共演し華々しくヨーロッパデヴュー。世界の聴衆から喝さいを受ける日々が30年以上続く。しかし、2005年、突然、活動を休止。左手人差し指を痛めてしまう。これまでともに歩んできたバイオリンを失う。そのとき向き合ったのはバッハの無伴奏作品でした。
コメント
世界有数のバイオリニストになるなんて考えてもみませんでした。バイオリン、特にその音色に魅了されこの年までひたすら情熱を注ぎ、演奏することに喜びを感じてきました。
「人々に音楽を届けたい」この思いが私を駆り立てたのです。
初めてモーツァルトを弾いた幼い日、美しさ、みずみずしさに圧倒されました。
若い頃は夢がいっぱいでした。練習の時も架空の聴衆に向けて音楽を奏で、壁さえも私の聴衆だと感じていました。「音楽を届けたい」という思いに突き動かされていたのです。
指を痛めてからは、楽器をおいて内省すること。頭の中だけで音楽を解釈し、和声を捉え流れを作るこれまでにない練習の日々でした。寝る時もバッハのフーガが頭をめぐり、音楽を構築していました。どの音も沈思黙考の上生まれたものです。昔は一音でも間違えると落ち込んだものです。できない自分をどうしても許せなかった。
もはや技術的に完璧な演奏はできません。肉体的な限界を感じます。しかし今の私が求めるのは、心に残る音が響く特別な瞬間を聴衆と分かち合うことです。
若い時は「無の境地」なんて馬鹿にして常に何かを得ようと突き進んでいました。今は「無」こそが自由だと思うのです。
人間の一生は束縛との闘いです。それは受胎の瞬間から始まります。9か月で誕生しお乳をもらうために泣き叫ぶ。そして最初の一歩、大人は感激しますが、赤ん坊には試練です。色々な経験をしながら一生を終える。たった一度の人生をどう生きるか、人生という旅の途中で何を発見するか、そこに深い意味を見出せるかは自分次第。自問自答を続けることが大切で、それなしでは演奏できません。
一音一音を自らに問いかけ生み出す、それが今の私の音楽です。
☆「ヴォカリーズ」ラフマニノフ:作曲
☆「シャコンヌ」バッハ:作曲
☆「バイオリン・ソナタ イ長調」フランク:作曲
🎵
シャコンヌ、深いところから深いところに語りかけてくる。「壁さえもが私の聴衆」というが、逆に静物、家具、絵画、壁、ドア、窓までが彼女に語り掛けているすべてに彼女が丁寧に弦で応答している感じさえする。深い川底を澄明な水がこだわりのある一つひとつの岩に石ころに得心しながら底を削り流れるようでもある。キョンファだ、やっぱり!エーネスの美しいシャコンヌとはまた一味違っている。
🎧
名曲アルバム
「交響曲第4番 不滅」ニルセン作曲
【管弦楽】NHK交響楽団,【指揮】沼尻竜典
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