クラシック倶楽部を聴いて
藤木大地 カウンターテナー・リサイタル 。「旅」をテーマに歌う。ピアノは多田聡子。2017年1月21日 東京文化会館小ホール
カウンターテナーを聴きながら、坂東玉三郎の非現実的な美しさを曳く姿が浮かんだ。なにかこの声に通じるものがある。ただ声の方は、暗がりに硬質な光を放つ。殊にも、悲しみを歌うときには、その悲しみが光を放つ、悲しみが“生きる”、悲しみを“生かす”という感じがするのだ。「ダニー・ボーイ」や「死んだ男の残したものは」に、それが顕著に聴きとれた。1980生まれ。2013年、ウィーン国立歌劇場と日本人カウンターテナ-として初めて、客演契約を結ぶ。
Warner Music Japanには「日本人、そして東洋人カウンターテナーとしても史上初の快挙!」とあったが、カウンターテナーに転向したのは2011年。番組の中で、藤木は「リサイタルは自分の全部を自由に表現できる、何としあわせなことだろう」と語りつつ、曲から感じたことをできるだけ観客につたえなければならない使命があるとも話している。
「てがみ」は、加藤昌則が藤木のために書き下ろしている。このステージで世界初演という。詞は岸田衿子。詞の内容から、これは実際に書いている手紙なのではなく、心の中のつぶやきであって、実際には亡くなるか隔てられているかで書くことのできない相手に絶えず心の中に反芻される想いのつぶやきであるかと。抜粋するとーどうしていますか/午后は雨です/夕方林の道の奥で/オーボエが鳴るのを聞くでしょうー、このオーボエがふくろうのような気が。ふくろうが一日のどの時間帯でよく啼くものかはわからないが。「死んだ男の残したものは」は武満がベトナムの平和を願う市民集会のために作曲。谷川俊太郎の詞が切々と心にしみる。
この録画はまえにもいちど観ているのだが、幾分か注意深く視聴する習慣がついたいま、新たに聴いたといえるほど理解がまるで違っている。この番組を教材としてついてきた甲斐があった。有難いことだ。
☆「旅のこころ」、高田敏子・作詞、加藤昌則・作曲。☆「歌曲集「旅の歌」から“美しい人よ目覚めよ”」、L.スティーヴンソン・作詞、V.ウィリアムズ・作曲。☆「歌曲集「旅の歌」から“私はいずこにさすらうか”」、L.スティーヴンソン・作詞、V.ウィリアムズ・作曲。☆「ゴンドラの唄」、吉井勇・作詞、中山晋平・作曲。☆「宵待草」、竹久夢二・作詞、多忠亮・作曲。☆「夢みたものは・・・」、立原道造・作詞、木下牧子・作曲。☆「てがみ」、岸田衿子・作詞、加藤昌則・作曲。
☆「ダニー・ボーイ」、F.ウェザリー なかにし礼・作詞、アイルランド民謡・作曲。☆「死んだ男の残したものは」、谷川俊太郎・作詞、武満徹・作曲。☆「万霊節 作品10第8」、V.ギルム・作詞、R.シュトラウス・作曲。☆「あすの朝 作品27第4」、H.マッケイ・作詞、R.シュトラウス・作曲。☆「小さな空」、武満徹・作詞、武満徹・作曲。
“名曲”は、「喜歌劇“チャールダーシュの女王”」カールマーン作曲、上柴はじめ編曲。ソプラノ・佐々木典子、合唱・二期会合唱団、東京フィルハーモニー交響楽団、指揮・岩村力。
これもまえに聴いて聴き落したところ、記憶にのこらなかったところを補填。何度でも聴いてみるもの、発見は尽きない。
充実感をもらって、 6時53分 更新
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