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詩『石よ』ー被災された方々に捧げますー

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20140523_204930   石よ   

海辺に向かう
わたしの心に
何者かが問いかけてくる
「被災したのが
 なぜお前ではなく俺たちなのか
 三年経ったというが
 いったいどこが
 どう変ったのか」

くねる坂道を下ると
現れるV字の谷に
瓢然と浮かびあがる
小堀内漁港
水平線には
幾条もの光が
悪びれもせずに
燦然と戯れている

降り立つ岩場に
しばし合わせる
手の内の
何という
術の軽さよ

抉られた断崖は
荒涼と生々しく
いまだに
覆う草木の蓋もない

目を落とす足元には
波に洗われ
息を詰めている夥しい石
その中の
扁平な卵のような石には
幾重にも地層が覗いている

かつての在りかはどこか
そこから
どのように崩れ落ち
波に浚われたのか

潮が曳けば
黒々と光沢を放ち
潮が満ちれば
所在なげにその姿を揺らす

拾い上げ
陽の光に晒せば
安息を得たかに
白く干されていく
砕かれ揉まれ
研がれた面には
もはや抗う角もない

生ぬるく
ただ滑らかで
喉元に積る言葉を
語りたくとも
語ることなく
石は掌に鎮まり
まざまざと
楕円の影を落とす

     -第67回岩手芸術祭詩部門 芸術祭賞ー
       作 加藤 和子 






 
 

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