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過食と飢餓

ブログ更新が、 毎日写真の連続ではと、きょうは、2013年1月に、もりおか童話の会で読みあげた原稿を載せることに。

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題 「飽食と飢餓」

 滅多にテレビを見ることはないが、最近、気まぐれに点けてみると、肥満解消法などという番組にあたった。肥満時の腹囲を測り、解消法を実行したあとにまた測るといった内容だ。ダイエットのコマーシャルだ。

 世界の肥満人口は今や20億。一昔まえ、肥満の原因は特定の地域や文化グループの特徴だと思われていた。しかし、最大の原因はむしろ、所得が増え、高カロリーで肉中心、ファストフードに依存した「欧米型」の食生活にあることが判っている。それに伴ってライフスタイルが変わることも大きな要素だ。

 過食の例としては、アメリカ心臓協会が、中程度の運動をする男性は2500カロリーでよいとしているが、実際には、3770カロリー摂っている。オーストリア、ギリシャもこれに並ぶ。食べ過ぎなのだ。しかし一概に過食とはいえず、遺伝的な要因が絡んでいるケースもあるようだ。それはともかく、かつては、自分もこれと同系列であったといえる。

 一時期、簡便なダイエット法に注意を向けていたことはある。どれが最も簡単に、つまり、楽をして痩せられるか、言い換えるなら、食べたいものはぜんぶ食べて、そして尚且つ痩せられるという、まことに怠惰で身勝手で好都合な方法を探していたわけだ。

 ところが、たまに血圧が跳ね上がっているのに気づくようになった。上の数値が145と見て不安が兆した。身近に、脳梗塞で倒れて救急車で運ばれたとか、車いす生活になってしまったという方々のようすを耳にしたときでさえ、なに、自分は大丈夫という慢心があった。ところが、そうも言ってはおられない。しているうちに、夜中まですこし無理をしたりすると、血圧計が160170を指す。ついに降圧剤かとクリニックに相談すると、先ず食生活を改善するよう指導された。これは結構大変だった。身体的苦痛は伴わないものの、なかなかに実行が難しい。しかし、兎に角、塩抜きから実行した。野菜にはドレッシングやソース、醤油をかけない。納豆もからしか大根おろしなどを混ぜて食べる。肉の脂身をできるだけ除く。食油を極力抑える。青物系の魚を中心に摂る。ケーキのような洋菓子は極力我慢する。先ずはこのようなことを約半年実行した結果、血圧が3040下がり、いまは上の数値が110前後、高い時で130とほぼ一定している。体重も5キロ減った。そして現在、血圧降下剤は必要としていない。

 暇なときほど、食べたい、それは空腹だからではなく、何となく食べたいというのなのだが。目的意識がはっきりとあり、為すべきことがあるときには、さほど食べ物に意識は向かない。

 体重が減り、血圧も安定したいま思うことは、自分の場合、明らかに以前は過食であったということだ。動物は空腹が満たされると、それ以上は狩りをしない。ただ冬眠に入る直前や、授乳のためには、普段より多く食物を摂ることはある。何れ、空腹が満たされても尚食べ飽きて止まないのが人であるようだ。

 農林水産省で出された家庭における食品廃棄の現状を見ると、買い込んだ食品で手つかずで投棄されるものが11.1パーセント、食べ残しとして捨てられるものが27.7パーセント、つまり、食品廃棄物の約4割がまだ食べられるのにゴミとして処分されている。我が家には、グルメの人間もいなければ、美食家もいない。それでも、たしかに毎回何らかの食品を廃棄している。

 さて、このように食品が堂々と投棄されている一方で、世の中には食べられない人々が存在する。これには、バイオマス燃料の需要による穀物投機も要因としてあるようだが、たとえ、どこにどんな連鎖があり、何が要因であるとしても心の痛むことである。

シベリヤ抑留に遭い生還してきた叔父が、井戸で野菜を洗っていたときに流されてしまったネギを、勿体ないといってどこまでも追いかけたという話を母から聞いたことがある。どれほどの飢餓に耐えてきたかが想像せられ、涙を禁じえなかったという。しかし世界にもこのすがた、過酷な現状はいつの時代にもある。

今でも世界では9億2500万人の人々が飢餓に苦しんでいる。アジア・太平洋5億8700万、サハラ以南のアフリカ2億3900万、中東・北アフリカ3700万、ラテンアメリカ・カリブ海5300万人。またこの国にも、それより身近にも、米の一粒、パンのひとかけらでも必要としている人々がいる。もしこれが自分の息子であったなら、家族であったならと思うと何か安閑としてはいられない思いになる。或いはこの厳しい時代、息子たちも、自らも、いつこの予備軍とならないとも限らない。

何れにしろ、これまで、一応まだ大国であるという圏内にあって、国力で獲得した物資に甘んじ、過食にも甘んじ、驚くべき飢餓人口を知りつつも食品投棄してきた罪は、決して軽くはないだろう。

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