国民休暇村岩手網張温泉
わが家にも、ひさしぶりに帰省した者がいるわけで、
「どこか行く?」
「天気よくないね」
「じゃ温泉にでも」
というわけで国民休暇村岩手網張温泉に行くことに。
出発するときには小雨がぱらついていました。盛岡市から国道46号線をまっしぐら。七つ森を過ぎさらに直進。「網張はこちら」の親切な標識を素直に右へ。次なるネックも右でした。もうそれからはひたすら上へ上へと上昇あるのみ。やがてT字路に。左に折れたころには雨が車窓をぴしぴしと。う~ん、ティンパニーよりちと淡泊。抜けた明るさはないけれど、林の中にも路肩にもすこし汚れた雪がまだ居直ってもいるけれど、しかししかし、あと半月もすれば、山全体が行くが行くが透過しそうな輝くイエローグリーン、モスグリーン、ビリジャンの海となるのだ。
わが家の手狭な庭に明るく咲いたこんな花の一つや二つどころか、山桜やこぶしだって林のいたるところに、くつくつ笑って咲くだろう。
選んだ湯船は「見晴らしの湯」。近頃とみに中性化している身とはいえ、取りあえずは女湯の戸をあけるとふんわかと硫黄のにおい。これぞ温泉。牛乳よりは薄明かりのする、湯気が暢気そうにたゆたう溢れる湯船にどっぷりと浸かるは4人。話しかけたり話しかけられたり。
「どちらから?」
「青森」
見晴らしの良い窓からはまだ雪を留めたゲレンデが緩やかな傾斜を見せている。
「青森の温泉といったらどこが一番ですか?」
「酸ヶ湯かな。だけど混浴だったりして」
わたしの女友だちには混浴に入る剛の者もいて…と思い出しているうちに青森婦人は言ってくださった。
「なんてったって、ここが一番。近いしね」
ここが一番とは! 地元民としてはもうほくほく。
「仙女の湯、どうです?」と青森婦人。
「さあ、入ったことなくて」、スミマセン。
右隣に浸かっている婦人は南からの北上らしい。
「(今年は4月28、29日の)日高火防祭も雨で駄目だったの。北上の展勝地も桜がまだ早くて。あしたの八幡平もどうなるか…」。この天候不順でさまざまに影響を被っている気配。天候不順、それさえなければ、北上(ほくじょう)婦人の仰る3箇所は、クリックしていただければ、訪れる価値のあるところと分るのです。
もうお一方は農業経営の地元婦人。「平成5年に似てるね。あのとき、タイ米食べたけど、うちで作ったコメの屑米でもあれよりはよほど美味しかった」。私の父が亡くなったのも平成5年の冷夏。即〝米騒動〟が蘇る。さて今年の作況指数はどうなるか。植物を起こして土を入れ替えるのは11月がいいとか、籾殻は農家にお願いすれば簡単に手に入るとか御指南をいただく。
とっくに風呂からあがって、これもまた見晴らしの良いきれいな無料休憩室で寛いでいた家族たち。帰るときには雲がどんどん動きだし、ゲレンデにはその影が流れていましたっけ。写真を撮るわたしに若干しびれぎみの家族たち。力を帯びて流れる雲の影。見ているうちに自分も影と一緒に流れていましたっけ。ようよう日の光が照り、それぞれの脳裡には残雪の山並みが焼き付けられて車は発進。
帰りは春子谷地をまわり、ちょろちょろと流れる青い水にあたかも白い炎のように眩しく尖る水芭蕉を、湿地にでんと根を張り突っ立つ樹木の前に後ろに、右に左に見ながら、つかの間の行楽はデミヌエンドとなったのでした。
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