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奥羽の鷹使い

奥羽の鷹使いー日本の狩猟習俗ー
        (岩手県立図書館蔵ビデオ)

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クマタカはイヌワシに次ぐ猛禽類だ。飼い慣らして狩に使うこの地方にだけ残された狩猟習俗があった。クマタカ狩ではノウサギ、タヌキ、テンなどを捕える。ノウサギは冬場の山村のタンパク源であり、毛皮は耳当てなどの防寒具、また生活用品ともなる。クマタカ狩の起源は不明だが、昔から鷹の羽音を真似た音を出す道具を使って獲物を脅し、音と影にすくんで動けなくなったり、穴に逃げ込んだウサギを捕える威嚇猟法があったようだ。

 この記録に登場する松原英俊さんは、春先の繁殖期に雛を手に入れ育てた。昼夜傍を離れずに見守り育てるのだ。成鳥になってからの訓練はとても興味深く面白い。11月始めに鷹を入れておく小屋から出す。痛んだ羽を切ったり、爪の先端にヤスリをかける。これは、鷹を載せるときに手に巻く手甲から、鷹が飛び立つときにひっかからないようにするためだ。両脚にこあし縄という縄をつけて、3本の指にかける。

 鷹を暗箱に移し、20日間絶食させる。体力があるとなつかない。空腹に慣れさせながら、毎日深夜に真っ暗闇の中で鷹を手甲にすえる(留らせる)訓練をする。やがて少しずつ明るくして鷹使いがいることを教える。鷹はしだいに警戒心を解いていく。すえまわしの訓練は、夜ずえ(夜に外を歩く)から、朝ずえ、野ずえと進む。鷹が手甲に安心してすえるようになったら、水を飲むことを教える。最初は肉片を入れて水を飲ませ、3,4日たつと肉片が無くとも水を飲むようになる。3日に一度水を飲ませる。調整、訓練を初めて10日目には、さらに車の音、町ずえ(町の騒音、雑音)にも慣れさせる。20日の絶食の後にお椀一杯の肉を与える。10日おき、5日おき、3日おきに与えていく。絶食をさせながら、獲物を欲しがる状態に持って行く。次には縄をつけたままで、手甲に呼び戻す訓練をし、いよいよ獲物に突っ込む訓練となる。

 鷹使いは、鷹の体力の調整に注意を払わなければならない。常に空腹にさせ、しかも飛べるだけの体力は保つようにしなければならない。暗箱に30~40日入れて体重は3分の1に落ちる。空腹で絶えず泣くようになる。

 狩の実地訓練を終えて、鷹は獲物を捕っても山に飛び去ってしまうこともなく、獲物をがっしと捕えたまま鷹使いが駆け寄ってくるのを待つ。狩は12月末~4月までつづく。3月のかた雪のときが最も良い。2006年で絶滅危惧1B類となった。

 それにしてもイヌワシよりも若干小型というだけで、体重はやはり4,5㌔あるのではないか。鷹を片腕に歩く姿は何とも風格がありカッコいいのだが、この重さでは、けっこう難儀だろう。いま鷹狩の技術を持っているのは、山形県旭村の松原英俊さんと秋田県羽後町の武田宇市郎さんだという。この記録に見たクマタカ、ほんとうに威厳、風格があった。鷹狩のこんな風情が、いつまでも奥羽の山々とともにあって欲しい。

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コメント

偶然でしょうが、きょう古書店で田中康弘さんの「マタギ」を見つけ、読んでいたところでした。如何にして熊を、鷹を屈服させるかというよりも、食肉市場(写真で見ただけですが)の工場に於ける処理からスーパーに出回るパック詰めにいたるまでの過程を見ることがなく肉が食されている。とさつを知らず、解体を知らない。命を食するときに、これでいいのか。しかしマタギは解体の前には祈りを献げる。食するまでの一連を逐一目の当たりにする。動物を食べるとはこういう事だと知っている。
何でそんなことに拘るのかと言われるかもしれない。ここに何の結論も、こうあるべきだとの提示も見出してはいないのですが、現代人に欠けている感覚、それがなにか気になってのことです。
熊使い、鷹使い、国により民俗によって、それぞれに編み出された術策があるようですね。この違いを渡りみても面白いかも知れません。
訪問感謝です!

投稿: 中ぶんな | 2010年3月 6日 (土) 21時56分

ロシアの熊使いは3日の絶食と塩抜き無しの鱈の干物で熊を屈服させたそうですが誇り高き鷲達はそうもいかない、多分鳥頭だから気にしないのか

投稿: 内丸育ち | 2010年3月 6日 (土) 20時44分

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