カラバッジョー「ダヴィデとゴリアテ」ー
火曜日にTVで、イタリアのバロック絵画、ミケランジェロ・メリージ・カラヴァッジョ(1573~1610)を観た。番組の最初の部分だけだったが、このときはそれで十分だった。新聞などでも特集されたことがある。
「徹底した写実性・・・劇的な明暗対比や感情表現。自らの眼で見る現実だけを唯一の手本とした」という。
1606年35歳のとき喧嘩がもとで一人の男と決闘になり相手を刺し殺す。殺人犯として追われローマから逃亡。マルタ共和国に逃れ、そこで1608年「洗礼者聖ヨハネの斬首」を描き、認められ教皇から罷免される。しかし数ヶ月後には些細なことで決闘し投獄される。脱走を試みるも数日後には逮捕される。「洗礼者聖ヨハネの斬首」の前で斬首刑を宣告されている。享年38歳。
カラヴァッジョの一連の作品のある一側面にはデカダンを感じる。彼の暴力性、残虐性といった強烈な一面が、「暗」の底を成している。ただこの番組の中で、1599年ごろに制作された「ダビデとゴリアテ」が映し出されたとき、色々な作品を観ても滅多には涙しないが、涙が止まらなかった。
「ダビデとゴリアテ」は、ダビデが、イスラエルの敵ゴリアテの額に、小石を命中させて倒したという聖書の故事が題材となっている。ダビデがゴリアテの首を斬ろうとしているのだが、ゴリアテの顔はカラヴァッジョをモデルとして描かれている。これは神の裁きの前に首を差しだしているカラヴァッジョの姿なのだろう。使徒行伝にあるパウロの「わたしは罪人の頭です」という言葉が浮かぶ。それはとりもなおさずわたし自身の言葉でもある。自分のなかに確たる正義はない、といつかこのブログにも書いたが、まさしくその通りである。自分に多少なりとも義があるとしたら、キリストの血によってあがなわれた義だけである。キリストによる義、神による義しか持ち得ない自らをカラヴァッジョも自覚していたに違いない。ついに追われる身となるがその先で「洗礼者ヨハネの斬首」をもって罷免されるも一年もたたぬうちに再び罪を犯し投獄される。「ダビデとゴリアテ」はカラヴァッジョが図らずも自らの末路を予言した絵であったと思われてならない。
どうしようもない自らを画業に投じ、制作するときにのみ、つかの間の充足、喜び、安息を手にしていたのではなかろうか。カラヴァッジョが神に赦されたかどうか。私は人生のある地点でまことの悔い改めがあるなら、神には赦されると考えている。それは「洗礼者ヨハネの斬首」においてではなく「ダビデとゴリアテ」の制作のときであったように思う。ただこれは見識もないわたしが言うことであって、カラヴァッジョが神に赦されたかどうかは、やはり神に訊いてみるより他ない。
本物の絵を観ずして書く非常識で手前勝手な感想を綴ってみました。
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コメント
紫湖さま
またまたの訪問感謝いたします。
「ダビデとゴリアテ」同じところで感動していたとは嬉しくなりました。やはりこれは絵の持つ力ですよね。本物の作品はさらに強烈に迫ってくるものと。
音楽、絵画にけっして詳しくはないのですが、どうして?なぜ?に背中を押されて検索したり手近な書物を開いたり。そんな程度です。
たしかにネットは巨大な私設図書館を抱えたようなもの。ただの知識ならもう誰にでもいくらでも手に入る時代。そのうちキーボードを叩かなくとも情報が出てくる時代が来るのかも?
これからもさまざまな感動を共有してゆきたいですね。宜しくお願いいたします。
投稿: 中ぶんな | 2008年10月10日 (金) 21時42分
おはようございます。
わたしも、同じ番組をちらっと見ました。
ゴリアテ・・の絵は見なかったけど、というかカラヴァッジョという画家の描いたもの
という事も知らずに番組を見ていたのですが
なんていうか、やっぱり胸にどか~ん!と響いて「この絵は誰が?」と後から調べたのでした。
わたしは中ぶんなさんみたいに、詳しい事は
わからなかったのですが、胸に響くもの
ってあるのですね・・・。
鬼気迫る絵 とても申しましょうか。
素晴らしいものに触れた(儲けた!ありがとう)という感想でした。
一度本物に出会いたいですね!
また、このブログを見させていただいて
「ダビデとゴリアテ」についてもネット調査(!?)しました。
ふむ、なるほど、でした。ネット便利ですね!
お陰で楽しませていただいています!
投稿: 紫湖 | 2008年10月10日 (金) 06時19分