映画「母べえ」
午後、主人が久しぶりに映画に行こうというので、慌てて台所を片付けました。上映時間までに時間があまりないというので、とにかくひたすらルミエールまで歩きました。
観ました観ました「母べえ」。山田洋次監督、主演は反戦、平和の人吉永小百合。
吉永小百合の、人生の雨風にもまったく損なわれていない明るくピュアな美しさ。ほんとうに輝いてました。主人も水泳をやってますが、吉永小百合も水泳をしているとか。金槌の山ちゃんが海で溺れそうになるシーンでは、颯爽と飛び込み助けにかかるのですが、洋服をきたまま飛び込む姿もまた強くひたむきでスマートでした。
小百合扮するは野上佳代。板東三津五郎扮する佳代の夫滋は文学者。滋が治安維持法違反で検挙されてから、二人の娘の初子(志田未来)、照子(佐藤未来)を守り励まし、山崎徹(浅野忠信)、滋の妹久子(檀れい)、佳代の叔父仙吉(笑福亭鶴瓶)の助けを得て乗りこえていくのです。鼻持ちならないようだけれども正直であけっぴろげな仙吉への佳代の受容、温かさ。また片耳が聞こえず徴兵を免れ、恩師滋の家族の助けとなる山崎のホットな誠実さが印象的でした。
教職に就く母べえ。式典のたびに持ち出される「御真影」に、なぜか北朝鮮の金成日が重なりました。
滋の恩師が体制の誤りを悟りつつも、体制に立ち向かえない自らの矛盾を「法は法、悪法も法」と濁してしまうくだりで、自らの権威を大きく強く見せながら、人間の持つ弱さを瞬時に明確に演じ分けてくれてました。滋の反省文を突き返す検察側となって現れる滋の教え子も、体制の権威を着たばかりに、矛盾に服従せざるを得ない弱さを、強がりにかいま見せて好演してました。
滋は検挙されたのちも、不本意な状況に荒々しい言動もなく、苦しく狂おしい葛藤を露骨に見せることもなく、むしろ殉教者の様相で嵌ってゆきます。遺体で家族のもとに帰るのですが、冷たく硬直した足に、やつれた面差しに涙がでました。
ついに山崎にも召集令状が。爆撃で海の藻屑と消えゆく兵士ら。山崎は友人に佳代宛てのメッセージを託するのです。「死んでも魂となり傍にあって守る」と。これも感動でした。
最後に朗読される佳代への滋の心情、これもまた切々と胸を打ちました。佳代の臨終のとき、あの世で懐かしい人たちに会えることを娘がいったとき、佳代は、消えゆきそうな息のなかで、この世でこそ会いたいのだと言います。この最後の言葉のなかには、「今だよ、あなたが生きているいま声をあげなさい、あなたの家族のために、あなたの友人のために、すべての人々のために」というメッセージがこめられていると思いました。
戦時下にあって、冷静に時代を見つめる澄んだ目、人を見る、人を見守る温かな目、そして人と人とのあいだに絆がはっきりと見える、心に染みる映画でした。
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